分散している自社株はありませんか?

(株)河野コンサル アナリスト 楯岡 亨

~世代交代と株式買取請求の恐ろしさ~

事業承継で最も重要なことは、会社の支配権(議決権)を後継者に譲るということです。

ご存じの通り創業オーナーと後継者では、株主に与える影響力が違います。今回はある企業で実際に起こった、親族役員との経営方針の対立から自社株のトラブルに発展してしまった事例をご紹介いたします。

A社は、当時で自己資本が120億円を超える地元でも有名な優良企業で、その年の決算では8億円の純利益となり、業績も順調に伸ばしていました。ご 相談を受けた年からさかのぼること5年前、創業オーナーが引退し、ご子息が後継者として社長となり会社を経営することとなりました。そこからです、先代の ころから会社で役員として務めていた親族2人が、次第に会社の経営方針を巡って異議を唱えるようになりました。社長側は話し合いを重ねましたが、お互いの 溝は広がるばかりです。最終的にはこの2人を解任するような事態になりました。

その時に懸念したのが、2人合わせて10%近いA社の株式を保有していたことです。そして、やはりというべきか、時を置かずしてその心配は現実のものとなりました。

2人は役員でしたので決算書の内容について把握しており、自分達の保有する株式が自己資本の10%であるということも知っていました。その額の12億円で買い取って欲しいと言ってきたのです。当然のことながら社長は毅然とした態度で要求を拒否しました。

もちろん2人はこのままあきらめるわけではありません。株主としての権利を行使し、裁判所を通して会社側に対して株主代表訴訟(※1)を起こしてき ました。2年ほど裁判で争いましたが決着がつかず、最終的には裁判官が『2人の全株式を2.6億円で買い取る』という和解案を出したところで弊社に相談に 来られました。

親族2人から和解案を上回る3億円での買い取りを要求してきている状況ではありましたが、すぐに買い取ることを勧めました。仮に和解が不成立に終 わった場合、次は株式買取請求権を行使するに違いありません。もしそうなりますと、該当株式の時価総額の約12億円を裁判所へ直ちに供託しなければなりま せん。価格の折り合いがつかなければ、何年も争うことになります。こういったケースの場合、時価に近い株価で買い取るのが多くの判例です。争っている間 12億円は供託したままになるため、会社経営にも支障が出る可能性もあります。

最終的に、話し合いの結果、裁判はせずA社は2人に2.8億円を支払い、全株式を買い取りました。

この事例は、後継者へ交代した後に起こった紛争です。後継者に社長の椅子を渡す前に、散らばった自社株を集約しておけば防げたかもしれません。株式が分散しているということは、その分リスクが多く会社経営に大きな影響を及ぼします。

支配権は大丈夫ですか。67%(2/3以上)、あるいは少なくとも51%(過半数)の議決権を確保していますか。株主構成を思い浮かべてください。 親族だから大丈夫とはいえなくなってきています。会社に携わらない人に自社株を渡していませんか。いつかは買い戻そうと考えている自社株はありませんか。 今がそのチャンスかもしれません。タイミングを計り分散した株の集約を進めることを是非ご検討ください。

<解説>

※     1 株主代表訴訟(かぶぬしだいひょうそしょう) [ 日本大百科全書(小学館) ]

l        取締役ほか役員等が会社に対して責任を負う場合、会社がその責任追及を怠るときは、株主が会社にかわって役員等の責任を追及するために提起することができる訴え。条文では、「責任追及等の訴え」と表記されている(会社法847条)。役員等の会社に対する責任は、本来は会社自らが追及すべきであるが、取締役間の仲間意識から不問に付される危険性があるので、出資者である株主自らで役員等の責任を追及する機会を保障したのが、代表訴訟制度である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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