「渡辺邸の解体」による社会的損失

立信事務所株式会社
不動産鑑定士 駒井 誠司

最近、約400年前に建立された指定文化財の「渡辺邸の解体」のニュースが流れましたが、皆様はどう感じられましたでしょうか?伝統や文化の継承こそ社会的財産ということでしょうか、または、破壊と創造の歴史こそ経済的発展ということでしょうか…?いずれにしても、「渡辺邸の解体」による社会的損失は大きかったのではと…。

私は、「渡辺邸の解体」が報じられた時、「金剛組の吸収」を思い出しました。渡辺邸は大阪市に存立する市内最古の私有民家でしたが、金剛組も大阪市に所在する世界最古のオーナー会社でした。世界の長寿企業ランキングが2008年に発表(ファミリービジネスマガジン誌)されるまで、金剛組は世界で一番古い会社としてトップに君臨しており、578年という聖徳太子の時代に創業され、宮大工を家業として金剛家が40代続けたオーナー会社でした。「金剛組の吸収」はバブル期の不動産投資の損失が原因ですが、今回の「渡辺邸の解体」も私有財産の相続税納付の不備が原因とのことであり、渡辺家が16代にわたり守り続けた歴史的建造物も一瞬にして取壊されたのでした。

では、その責任は誰が負うのでしょうか?一般的には、家業を継いだ社長であり、家督を継いだ当主ということになるでしょうが、そもそも他人が口出すことではありません。しかし、本当に誰にも責任はないのでしょうか?…たら、…れば、の話はすべきではないですが、金剛組は家業に専念していたらバブルの煽りを受けることもなかったでしょうし、渡辺邸も早くから社団法人化等の対策を講じておれば納税に困ることもなかったのではないでしょうか?

まず、歴史的建造物である渡辺邸についてですが、文化財保存に関しては所有者だけの問題ではなく、地元住民と自治体の3者が協力することにより、歴史的建造物は守られると云われておりますが、所有者が意思表示しない限りは他人の財産であり、地元住民も自治体も協力はできません。次に、オーナー会社である金剛組についてですが、会社経営に関してはオーナー社長(=株主)だけでなく、親族や役員・社員の3者の協力が必要ですが、事業の「選択と集中」を実現するのはオーナー社長の役割です。

こうして考えると、当主や社長の役割負担は大きいと言わざるを得ません。「家業は3代」という言葉をよく聞きますが、逆に3代で消滅することこそが自然の法則ということなのでしょう。「同族経営が2代目に引継がれるものが30%、3代目に引継がれるものが12%」のという統計データがあるなかで、渡辺邸の16代当主、金剛組の40代社長というのはまさに奇跡であり、出来うるならば存続して欲しかったと私は思います。

伝統や文化が失われ、創造なき破壊が続くなか、未来に伝承するための“繁栄と永続のための仕組みづくり”が必要なのではないでしょうか!

なお、平成24年7月1日時点の地価が都道府県別に公表されましたが、完全に二極化しております。渡辺邸のような歴史的建造物は、ビルド&スクラップの世界観にマッチするものではありませんが、不動産の地価も同じです。失われた地価はもう戻ってこないことを十分に認識して、不動産は本来的な資本財として取り扱うべきですね。

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