オーナー企業における事業承継の大きな勘違い

司法書士法人リーガルバンク 
司法書士 鈴木 泰幸

平成14年に河野コンサルの河野一良代表と巡り合って以来、事業承継にまつわる会社法務及び商業登記に携わってまいりました。この間、河野代表とともに年間約30回~60回のセミナーで講演し、200社を超える会員オーナー様の無議決権株式、持株会設立などのお手伝いをさせていただきました。

その実践を通じて河野代表から受けてまいりましたご指導や薫陶、会員オーナー様から教えをいただきました経営についての考え方や、安定成長のあり方などを土台として、会社法を紐解き、実践的なスキームを日々研究開発、実施しております。

事業承継のお手伝いを通じて日々痛感するのは、世に出ている本や情報は、一般の中小企業にはあてはまっても、会員オーナー企業のような自己資本の厚い優良未上場企業にとっては、まったく当てはまらないということです。

今回は、会社法専門の司法書士から見た事業承継対策の大きな勘違いを、実例をもってご紹介致します。

事業承継の大きな勘違い

① 事業承継は、税の問題ではない。

→議決権(支配権)の問題である。

あるオーナー企業の社長は、相続税のみに着眼され、社員に株をバラまきました。

その結果相続税は安くなりましたが、社長の亡くなった後、後継者は会社経営の議決権を確保する為、のたうちまわりながら、高額で株を買戻しています。

② 事業承継は、相続で解決させない。

→お元気な間に、株を後継者に移し悠々自適に行うものである。

ほとんどのオーナー様は、通常の相続対策をしても不安でいっぱいです。なぜか、しっくりこないのです。

一体なぜでしょうか?

ほとんどの対策はオーナー様がお亡くなりになった後、相続によって対策が完成されるスキームだからです。本当にできたかどうか最後まで見届けられないからです。

河野コンサル及び司法書士法人リーガルバンクの対策は、お元気な内に対策を実施、解決の方向性を示します。

③ 事業承継は、オーナー同族の為だけに行うのではない。

→確実に後継者に株(議決権)を譲り、社員が安心して働けるようにするためでもある。

一見、事業承継はオーナー同族の為だけに行うように思われがちですが、実は社員が安心して働くためにも絶対必要なものです。

ある会社のオーナー様が亡くなった後、長男が株式の40%、二男が30%を承継しました。その結果として、社員は長男と二男のどちらに従うべきか分からなくなってしまいました。大揉めに揉めた後、長男の会社と二男の会社にそれぞれ分社しましたが、多くの社員が不本意な形で会社を離れることとなりました。

後継者には議決権の67%、少なくとも51%以上を確実に渡すようにして下さい。それにより、社員は誰に従うべきかがわかるのです。

④ 事業承継においては、オーナーのまわりに理解者は一人もいない。

→事業承継の苦しみ、自己資本の本当の恐ろしさを体で感じるのは、相続税を払ったり株式買取り請求をされたりする、オーナーと後継者のみである。

会社の従業員やオーナー様に協力してきた専門家は、今までずっと会社を発展させるために一生懸命努力してきました。その結果、自己資本が分厚く積み上がったわけですが、事業承継の際にはこれが高い壁になります。しかしこのことは、オーナー様の口からはなかなか言えないものです。

また、事業承継の難しさ、怖さはオーナー様と後継者様以外には理解されにくい話であることから、従業員には事業承継の相談がなかなか出来ないのが実情のようです。

⑤ 事業承継は、能力のある者が承継するのではない。

→みんなが納得する者が承継するのである。

最近のビジネス書などには、事業継承はMBOなどで実力のある同族以外の者が継ぐ時代などと書いてあるものが見受けられます。そういう事例があるのは事実ですが、現実には中小企業で創業者の親族以外が会社を承継する事例はごく稀です。

実力のある者と一言で言うのは容易ですが、会員企業様のような優良企業の幹部社員であれば有能な方がお揃いであり、優劣は決めがたいものです。まして冒頭の「みんなが納得する者」という条件を考慮した場合、「血筋」というものは大きな説得力を持ちます。トヨタ自動車ですらも、世界危機の中では、同族(血筋)が出てきて初めて統率力が生まれました。

いくつかの例外はあるでしょうが、やはり自らの子供を後継者として、帝王学を伝える事が事業承継の基本です。

⑥ 日本では、事業承継を専門にやっている河野コンサルのような会社は他にない。

→本業に結びつけるために事業承継を行っている会社がほとんどである。

最近では銀行、保険会社、不動産会社など、様々な会社が盛んに事業承継セミナーを開き、事業承継に参入しています。しかし、これらの会社はあくまで「銀行」「保険会社」「不動産会社」であり、当然ですが本業は別にあります。結局のところこれらの会社の事業承継は、本業の利益に結びつける「手段」でしかありません。

これに対し、河野コンサルは、事業承継そのものが本業の会社です。

⑦ 事業承継にパターンはない。

→一つの事柄で対策は180度変わる。

事業承継の対策は1社1社オーダーメイドで、同じものはありません。また、事業承継の過程で180度異なる対策になる場合もあります。

ある会社の最初のプランは無議決権株式の持株会を作る方向でしたが、その過程で、オーナーの姉より株を安く譲ってもいいとの打診がありました。河野コンサル、司法書士法人リーガルバンクは、持株会を立ち上げている間に姉の気が変わる事を恐れ、この機を逃さずオーナー個人で買い取る事を提案。一週間後には買取りを実施し、後からみなし贈与税を納付しました。その後、オーナーが姉から買い取った株を持株会へ譲渡し、無議決権化しました。

しかし、考えがすぐに変わる姉の性格を知るオーナーは、よく背中を押してくれたと喜んでいます。

⑧ 事業承継は、税制に頼れない。

→なぜなら税制はコロコロ変わるからである。

最近、事業承継税制として納税猶予制度が設けられましたが、あまりにも規制が多く、実施されている例は少ないようです。

税制は毎年コロコロ変わります。また、政権すら変わる時代です。今後、時代の変化に伴い事業承継税制に関する政府の考えも変わっていくことが予測されます。果たして20年後30年後、この制度自体存続されているのでしょうか。

結 論

事業承継は税の問題ではなく議決権の問題です。

経営で成功されたオーナー様は、お元気な内に事業承継対策により、株(議決権)を後継者に譲るか、いつでも譲れるようにして下さい。そしてご自分は、晴々と、又、社員の方は安心して事業に専念して頂く、これが真の事業承継だと確信しております。

(Up To Date 2009年11月号に掲載)

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