株式保有特定会社に関わる通達改正のインパクト

早川会計事務所
税理士 早川 智之株式保有特定会社に関わる通達改正のインパクト

去る5月27日、国税庁は「財産評価基本通達」の一部の改正を行いました。

その内容は、株式保有特定会社の判定につき、会社の区分に関わらず、総資産に占める株式等の割合が50%以上の会社を株式保有特定会社とするというものです。

平成25年5月27日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価から適用されます。また、過去の相続税・贈与税の申告についても、この通達の改正を知った日の翌日から2ヶ月以内に更正の請求をすることができますが、法定申告期限からすでに5年(贈与税の場合は6年)を経過している分については更正の請求をすることができませんので、注意が必要です。

株式保有特定会社とは、会社の資産構成上、資産が著しく株式等に偏っている会社をいい、類似業種比準価額を使用できず、純資産価額にて評価されます(簡易な評価方法として、s1+s2方式という方法も認められます)。一般的には、類似業種比準価額よりも純資産価額の方が高いので、株式保有特定会社になりますと、その会社の株価は高くなり、それが相続税等に反映されることになります。

資産構成が著しく株式等に偏っているかどうかを株式保有割合なるものを用いて判定します。株式保有割合とは、総資産に占める株式等の割合をいい、その算出にあたっては、総資産、株式等ともに相続税評価額がベースとなります。

通達改正以前は、大会社では株式保有割合が25%以上で株式保有特定会社になり、中会社及び小会社では当該割合が50%以上で株式保有特定会社になりました。これが、通達改正後は、大会社、中会社、小会社ともに株式保有割合が50%以上で株式保有特定会社になります。

そもそも、この通達はなぜできたのでしょうか?

たとえば、上場会社の創業経営者が保有していた自社株式を類似業種比準価額を使用できる非上場会社に移転することで、本来ならば上場会社の市場株価で評価されるところを非上場会社の類似業種比準価額でもって評価されるようにし、財産圧縮を図ることができました。平成元年頃のバブル期にこういった極端な節税策が流行ったため、平成2年8月に財産評価基本通達の一部を改正して、株式保有特定会社という会社区分を設け、極端な節税策を打てないように防止をしました。

今回の通達改正に至った経緯についてですが、ある非上場会社の大株主の親族が相続により取得した当該会社の株式につき、類似業種比準価額にて評価し、相続税の申告をしたところ、税務署が当該会社は株式保有特定会社であり、類似業種比準価額での評価は認められないとして更正処分行ったところからはじまります。

この会社(Y社)はペットボトルの製造販売で国内有数のシェアを誇る会社であり、相続開始時の直前期末時点で総資産価額(帳簿価額)が約2,120億円、従業員数が5,291名、直前期の取引金額が約1,882億円と、上場会社と比べても遜色ない会社でした。

ところが、大会社であるY社は株式保有割合が約25.9%であったため、税務署に株式保有特定会社として認定されました。前述の通り、通達改正以前は、大会社は株式保有割合が25%以上で株式保有特定会社になったからです。

親族側は上場会社に匹敵するY社は類似業種比準価額で評価する方が合理的であると主張しましたが、国税不服審判所は財産評価基本通達の合理性を認め、親族側の請求を棄却しました。

親族側はこれを不服とし、課税処分の取り消しを求めて提訴をしました。

裁判所はどういう判断を下したのでしょうか?

東京地方裁判所、東京高等裁判所ともに親族側の主張を受け入れ、下記のように類似業種比準価額で評価すべきであると判決しました。

①法人企業統計をもとに算定された資本金10億円以上の営利法人(金融業及び保険業を除く)の株式保有割合は、平成元年度は7.38%、平成2年度は7.88%と25%より格段に低い数値となっており、大会社における株式保有特定会社の判定につき、株式保有割合を25%以上として設定することには合理性があった。

②しかし、その後平成9年の独占禁止法の改正により、従来は全面的に禁止されていた持株会社が一部認められるようになり、またそれを契機として株式交換制度や会社分割制度が創設され、持株会社や完全親子会社の創設ための規定の整備が進められるなど、本件相続開始時(平成16年)においては、平成2年当時の状況とは大きく変化している。

③本件相続開始時を調査期間に含む平成15年度法人企業統計をもとに算定された資本金10億円以上の営利法人(金融業及び保険業を除く)の株式保有割合は16.31%であり、25%と比べ格段に低い数値とはいえない。

④本件相続開始時において、③の営利法人につき時価(相続税評価額)に基づいて株式保有割合を算定した場合、③の16.31%よりも大幅に低くなるものと推認すべき証拠及び事情が見当たらない。

⑤法令上、子会社株式の取得価額の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が50%を超える会社が持株会社とされ、独占禁止法上の特別な規制がされている。

⑥以上のことを踏まえると、少なくとも本件相続開始時においては、評価通達に定めるところにより算定した株式保有割合が25%以上である全ての大会社につき、一律に株式保有特定会社として評価することに合理性がない。

⑦そうすると、大会社であるY社が株式保有特定会社に該当するか否かは、株式保有割合に加え、その企業としての規模や事業の実態等を総合考慮して判断すべきである。Y社の総資産価額(帳簿価額)・従業員数・取引金額・業界に占めるシェアに加え、Y社株式の時価総額が類似業種比準価額の計算に用いられる標本会社である上場会社の株式の時価総額の大部分を上回っていることを考慮すると、Y社の企業としての規模や事業の実態等は上場会社に匹敵するものである。

⑧Y社株式の価額の評価に関しては、原則的評価方式による評価額と適正な時価との開差を利用した租税回避行為の弊害を危惧する必要もない。

⑨したがって、Y社は株式保有特定会社には該当せず、類似業種比準価額で評価されるべきである。

この後、国が最高裁への上告を断念したため、裁判が確定しました。

この判決を受けて、株式保有特定会社の評価通達が冒頭のように改正されました。

この通達の改正が事業承継対策に与えるインパクトは大きいと考えられます。

事業承継対策の中には持株会社を用いた対策があり、持株会社が大会社であれば、通常であれば類似業種比準価額で評価されますが、株式保有割合が25%以上になると、途端に類似業種比準価額が使えなくなり、純資産価額での評価に切り替わりました。

そのため、持株会社は中会社の大にもっていくのが理想的であると考えられてきました。中会社の大であれば、類似業種比準価額×0.9+純資産価額×0.1が持株会社の株価となり、純資産価額が10%分だけ反映されるにとどまり、しかも株式保有特定会社の判定基準となる株式保有割合が50%であるためです。

これが通達改正後は、大会社である持株会社も株式保有割合が50%以上に引き上げられ、株式保有特定会社にならなければ、類似業種比準価額が持株会社の株価になります。言い換えれば、持株会社の下にぶら下がっている会社の評価額がどれだけ高くても、持株会社の株価には反映されないことになります。持株会社の業績により、株価が決まることになるのです。

持株会社が株式保有特定会社でない大会社ともなれば、その下にぶら下がっている会社の評価が持株会社の株価にまったく反映されないだけに、今回の通達の改正が事業承継対策に与えるインパクトは大きいと言えます。

 

 

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