事業承継対策の観点から見た税制改正

早川会計事務所DCIM100GOPRO
税理士 早川 智之

平成26年3月20日、「所得税法等の一部を改正する法律案」が参議院本会議で可決・成立しました。

今回の税制改正は昨年度と比べると大きな目玉となるものは少なく、小ぶりな税制改正となったという感じを受けます。ただ、その中でも事業承継対策の観点からみると、お伝えしたい内容がありますので、本稿で取り上げたいと思います。

前号においても平成26年度税制改正が取り上げられており、内容が重複するところがありますが、ご容赦ください。

本稿では下記の内容を取り上げたいと思います。本稿で取り上げなかった税制改正の内容につきましては、前号の寄稿記事をご参照いただけますと幸いです。

Ⅰ.生産性向上設備投資促進税制の創設

Ⅱ.少人数私募債の利息の課税方法の見直し

Ⅲ.公益法人に寄附をした場合の譲渡所得の非課税の特例制度の見直し

IⅤ.平成25年度税制改正の内容の確認

Ⅰ.生産性向上設備投資促進税制の創設 

当社(資本金9千万円)は、今回の税制改正を機に、5億円をかけて生産性を向上させる機械装置に設備投資をして、生産性向上設備投資促進税制を受けたいと考えています。設備投資をしなかった場合と設備投資をした場合とで、当社の税負担はどのように変わりますか?

なお、当期の申告所得は5億円、実効税率40%です。設備の耐用年数は9年です。

① 設備投資をしなかった場合

法人税等の金額 = 申告所得 × 実効税率 = 5億円 × 40% = 2億円

② 設備投資をした場合

【特別償却を選択する場合】

減価償却費 = 普通償却額 + 特別償却額 = 1.1億円 + 3.9億円 = 5億円

当期の申告所得額 = 当初の申告所得 - 減価償却費 = 5億円 - 5億円 = 0

法人税等の金額 = 0円 × 40% = 0円

【税額控除を選択する場合】

減価償却費 = 普通償却額 = 1.1億円

当期の申告所得額 = 当初の申告所得 - 減価償却費 = 5億円 - 1.1億円 = 3.9億円

税額控除の金額 = 取得価額 × 7% = 5億円 × 7% = 3,500万円

法人税等の金額 = 3.9億円 × 40% - 3,500万円 = 1.2億円

(改正の内容)

生産性向上設備を取得した場合には、一定の条件のもと、即時償却や税額控除(注)を受けることができます。

ただし、平成28年4月1日から平成29年3月31日までに取得した場合には、平成28年3月31日以前に取得した場合に比べて、優遇の度合が落ちます。

(注)平成28年3月31日以前に生産性向上機械装置を取得した場合、資本金の金額が3,000万円以下の法人は10%、3,000万円超1億円以下の法人は7%、1億円超の法人は5%の税額控除になります。

(適用時期)

平成26年1月20日から平成29年3月31日までに取得した生産性向上設備に適用されます。

☞ 特別償却を選択した場合には、設備の取得価額全額が損金になり、課税所得を圧縮する結果、類似業種比準価額が大幅に下がる可能性があります。自社株対策を有利に進めることができます。

Ⅱ.少人数私募債の利息の課税方法の見直し

私は同族会社の社長です。役員報酬は5,000万円です。また、自社発行の少人数私募債3億円(利率1%)を引き受けています。今回の税制改正により税負担はどのように変わるのでしょうか?

(現行)

給与所得 = 5,000万円-245万円(上限) = 4,755万円(総合課税)

利子所得 = 3億円 × 1% = 300万円(源泉分離課税)

上記所得に対する所得税及び住民税 = 約2,192万円

(改正後)  ※平成29年の場合

給与所得 = 5,000万円-220万円(上限) = 4,780万円(総合課税)

利子所得 = 3億円 × 1% = 300万円(総合課税)

上記所得に対する所得税及び住民税 = 約2,352万円

(改正の内容)

同族オーナーが同族会社発行の少人数私募債を引き受けている場合、オーナーが受け取る利息の課税方法が、源泉分離課税から総合課税に変わりますが、平成27年12月31日以前に発行されたものでも、平成28年1月1日以後に受け取る利息については、総合課税になります。

☞ 少人数私募債の利息の総合課税、給与所得控除の上限の引き下げならびに所得税率の引き上げにより税負担が増加します。

社債の引受先を個人から持株会社やグループ会社に切り替えることも考えられます。

Ⅲ.公益法人に寄附をした場合の譲渡所得の非課税の特例制度の見直し

私は同族会社の社長です。私が所有している自社株式を財団法人に寄附しようと考えています。今回の税制改正により何か気をつけることはありますか?

(改正の内容)

公益法人に発行済株式総数の2分の1を超える株式を寄附した場合には、所得税・相続税・贈与税の負担を不当に減少させるという認定を受けます。その結果、譲渡所得の非課税の特例が受けられなくなり、時価で譲渡したものとみなされて、所得税が課されます。

(適用時期)

平成26年4月1日以後に行われる株式の寄附について適用されます。

☞ 株式の寄附に関わらず、行き過ぎた対策は税務リスクを高めます。

Ⅳ.平成25年度税制改正の内容の確認

事業承継対策を考える上で、平成25年度税制改正はどうしても避けては通れませんので、ここで改めてその内容を確認したいと思います。

① 相続税の基礎控除の縮小

(現行) 5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の人数

(改正後) 3,000万円 +  600万円 × 法定相続人の人数

(適用時期) 平成27年1月1日以後の相続に対して適用

② 相続税の最高税率の引き上げ

(現行) 最高税率50%(基礎控除後の課税価格3億円超に対して適用)

(改正後) 最高税率55%(基礎控除後の課税価格6億円超に対して適用)

(適用時期) 平成27年1月1日以後の相続に対して適用

③ 贈与税の税率の特例の創設

(新設) 20歳以上の子や孫が父母や祖父母から受けた贈与について、一般の贈与に比べて税率を緩和

(適用時期) 平成27年1月1日以後の贈与に対して適用

④ 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大

(現行) 贈与者:65歳以上の父母、受贈者:20歳以上の子

(改正後) 贈与者:60歳以上の父母・祖父母、受贈者:20歳以上の子・孫

(適用時期) 平成27年1月1日以後の贈与に対して適用

⑤ 株式に係る譲渡所得の損益通算の見直し

(現行) 上場株式等の譲渡損と非上場株式の譲渡益の損益通算可

(改正後) 上場株式等の譲渡損と非上場株式の譲渡益の損益通算不可

(適用時期) 平成28年1月1日以後の譲渡に対して適用

 

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