資本政策とは、企業の基盤となる「資金の元手(資本)」をどのように構成し、誰がどの割合でリスクを負担するかを設計する経営行為である。非上場企業では、資本の出し手と経営の担い手が密接に結びつく一方で、相続や世代交代を契機に少数株主が生まれることが多い。彼らが直面する最大の課題は、株式の非流動性である。上場企業の株主は、市場で株式を売却することでリスクを自ら調整できる。しかし非上場企業では市場が存在せず、株式は譲渡制限の下に置かれ、保有したまま価値の変動に耐えるしかない。つまり少数株主は、経営の意思決定に関与できず、現金化も難しい資本を長期的に保有し続けるという構造的リスクを負う。この「非流動性リスク」は、株式の時間価値(現在割引価値)を低下させ、上場株に比べて流動性プレミアムを要求すべき状況を生み出す。そのため、非上場株主には本来、流動性の欠如に見合うプレミアム(リスク補償)が必要であり、それに応える最も現実的な手段が配当である。配当は、企業が株主に対して経済的成果を共有する制度的仕組みであり、経営の成果と財務健全性を確認する数少ない指標である。上場企業では株価が経営を映す鏡として機能し、業績や経営姿勢への市場の評価が即座に反映される。しかし市場を持たない非上場企業では、その鏡が存在しない。株主は日々の経営や財務の詳細を追うことができず、経営の健全性を直接確認する手段を持たない。その代わりに、配当が経営の説明責任を可視化する唯一の手段となる。配当水準とその継続性は、経営がどれだけ株主との信頼関係を維持し、資本効率を適切に管理しているかを示す尺度であり、少数株主にとっては非流動性リスクに見合う確実なリターンとなる。結局のところ、資本政策とは「資金をどう集めるか」ではなく、「誰がどのリスクを負い、どのように報われるか」を定義する営みである。非流動性リスクを負う株主に対し、安定的な配当で報いる仕組みを整えることが、資本の信頼を循環させ、企業の持続性を支える最も実務的な経営基盤である。相続により取得した少数株主に対して、流動性の欠如に見合うプレミアムを安定的に配当するためには、優先株式へ変更することも選択肢となり得るのではないか。