資本政策とは、企業の基盤となる「資金の元手」をどのように構成し、誰がどの割合でリスク(株式)を負担するかを設計することです。一方で、現金配分(キャッシュアロケーション)は、資本政策で定めた枠組み(株主資本)の中で、その資金をどのように運用し、事業成長や還元へと活かしていくか――つまり「資金の使い道」を設計する考え方です。企業の経営活動は、資金をどのように集め、どのように使うかという「お金の流れの設計」によって成り立っています。日々の経営判断で扱う資金の動き、すなわち営業キャッシュフローや借入、投資、返済、配当といった一連のプロセスは、現金配分(キャッシュアロケーション)と呼ばれます。オーナー企業において、「キャッシュイン(現金獲得)」と「キャッシュアウト(現金活用)」をどう組み立てるかは、財務の健全性と企業価値の両立を左右する重要な経営判断です。安定した資金をどう確保し、それをどのように有効に活用するか。その設計力こそが、企業の持続的な成長を決定づけます。1. キャッシュイン(現金獲得)──資本コストの最適化キャッシュインは、資金をどのように獲得するかという設計の領域です。営業キャッシュフローを基軸とし、必要に応じて借入や資産売却によって現金を確保します。営業活動で得られるキャッシュは最も安定した資金源であり、企業の自立性を高める重要な基盤です。一方で、借入はレバレッジを活用して資本効率を高める手段ですが、金利上昇局面では慎重な調達が求められます。返済期間や資金繰りを考慮し、資本政策での調達ができないかを検討したうえで、妥当な範囲内で実行することが重要です。さらに、遊休資産や低収益部門を売却して資金を得ることも有効です。これは単なる換金ではなく、再投資のための資金作りです。これらのキャッシュインをどう組み合わせるかが、企業の資本コストを決定します。内部資金でどこまで自走し、どの範囲で外部資金を取り入れるか──この設計こそが経営の安定と成長の分岐点です。2. キャッシュアウト(現金活用)──資本効率の最適化キャッシュアウトは、得られた資金をどのように使うかという配分の領域です。第一に、投資。設備・人材・研究開発など、将来のキャッシュを生む源泉を育てる行為です。資金回収の見通しが立つか、資本コストを上回るかどうかが判断基準となります。第二に、返済。借入金の返済は財務の安全性を高める一方で、資金の柔軟性を損なう要素にもなります。返済スピードの設計には、安定性と成長性のバランス感覚が求められます。また、無借金経営も一つの選択肢として合理的な判断です。自己資本を株主還元に回し、借入を増やせばROE(自己資本利益率)は確かに高まりますが、不要な借入までして資本効率を演出する必要はありません。安定的にキャッシュフローを生み出せる体制を維持することは、長期的な企業価値の維持・向上につながります。第三に、配当。利益の再投資との均衡を取りつつ、株主への適切な還元を行うことで、信頼性と資本コストの双方でプラスに作用します。キャッシュアウトの目的は、資金を減らすことではなく、資本を「働かせる」ことにあります。限られた資金をどこに振り向け、どのリターンを得るか──その選択こそが企業価値を決定づけます。